人はなぜ「美しい」がわかるのか

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昨年亡くなった橋本治が、60代半ば過ぎに書いたこの本を読み終えてみると、これもまた遺書の類かもしれないと思う。
私にとって、橋本治は団塊世代の先輩といった位置づけだ。

本書は難しい美学の本などではない。
美しい!と感じる瞬間は、幸福な生活実感から生まれる、ということが、繰り返し述べられる。
古典でいえば、生活実感のない「徒然草」はつまらなくて、「美の冒険者」であった清少納言の「枕草子」は面白い。
きれいだと思う風景の前で、ぼーっと佇む少年時代について、しつこいくらいに語り続けるのは、「美しい」と感じる感動は孤独な体験で、なかなか共有できない哀しみに満ちているからではないだろうか…

「あとがきのようなおまけ」という最終章こそ本題で、私が遺書のようだと思ったのはここだ。
前近代は制度社会で、まだ「孤独」というものは発見されていない。
近代になって、それ以前は社会的転落に過ぎなかったものが、孤独という、時に甘美ですらある心理的なものに変容する。
孤独は「自由」の別名でもあったが、それは青年期に限られたもので、青年は「成長(ビルトウングス)」して大人になる。
孤独は「時間の牢獄」に過ぎない。
そして目指すのはやはり前近代と同じ制度社会である。
孤独を知った近代青年がろくなオヤジにならなかった所以である。
「個の自覚」の別名だった「孤独」はやがて「自立」にとってかわられる。
個の中にも社会建設の方向性がある、と考えるのは、「人として生きている実感を欠く社会」をあくまで否定するからだ。

野に咲く百合は、ソロモンの栄華より美しい。

学生運動盛んなりし頃に青春期を過ごした著者の、これはやはり遺書となっているのではなかろうか。




※ 人はなぜ「美しい」がわかるのか  橋本治 著  ちくま新書(’14.4)

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この記事へのコメント

ワトソン
2020年05月20日 08:44
いつも本の紹介ありがとうございます。この本も気になったので、古本ですが注文しました。
音楽や絵画は、人が作ったもので、それを人が美しいと思うのは不思議ではありませんが、花は、人のためではなくチョウやハチを誘うために咲くのでしょう?
絶景もそうですが、それを人が美しいと思うことが不思議です。