『源氏物語』と『枕草子』謎解き平安ミステリー

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寿ケレバ則チ辱多シ

長生きすれば辱(はじ)も多い、という言葉が、明石の尼君、桐壺更衣の母はじめ源氏物語に登場する女性たちの口から、深いため息とともに漏らされる。
典拠は荘子の中の一節だそうだ。

清少納言が仕えた中宮定子は25歳という若さで没したが、その晩年は悲惨だった。
藤原一族に生まれた定子は一条天皇に入内し、一男二女をもうける。
父・関白の後ろ盾のもと、一族は栄華を極め、定子の後宮は、当時最高の文化水準を誇ったという。
父関白亡きあとの零落ぶりは物語の通りである。
天皇にどんなに愛されようと、実家の支援を受けられなくなった女院の末路は哀れである。

たとえ上流の貴族に生まれても、女の運命は、男社会の波にもまれ、浮沈を余儀なくされる。
紫式部の目は、権力闘争の具となって、いずこへとも流される女の行く末を見つめている。
冷徹な視線はすべてを見通していながら、「肝心なことは決して書かない」
しかし、入念に仕組まれた物語の構造が、歴史の真実を語らないはずはない。
忖度して、腰が引けたのではない。
時の権力を憚るようで、巧妙にその裏をかいたと言える。
様々な位相でミステリーが仕掛けられているのだ。

仏教的境地に至り、女君達は果たして救われただろうか…
紫式部の筆は、仏教的平等の観念から、ホモソーシャルの身分制差別社会の欺瞞を衝くことになる。
著者は、それを物語作者としての近代性ととらえ、紫式部を世界に先駆けた思想家であるとしている。

源氏物語に通奏低音となって流れているのは仏教思想である。
一方「枕草子」は、その明晰で鋭い切れ味の怜悧な文体がまるで現代小説のようである。
紫式部にしろ、清少納言にしろ、典雅な王朝世界を描き、その美意識を書き綴った著作を残しながら、その生没年も定かでないことが、男社会での女の立場を語っている。
二大作とも、物語的興奮だけでなく、尽きせぬ泉となって、今も読者の心を潤してくれる。
なんという奇跡だろうか…

先行する研究を引用しながら、古典の読みを深めてくれる好著だった。




※ 『源氏物語』と『枕草子』謎解き平安ミステリー
                 小池清治 著  PHP新書(’08.11)

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