早送り源氏物語 吉井勇抄訳を読む

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角田光代による新訳が完成、刊行されて間もない源氏物語。
角田訳は敬語が廃され、センテンスの短い、歯切れの良いものだそうだ。

ところで、現代語訳でさえ54帖を読み通すのはなかなか根気がいる。
そこで歌人・吉井勇の抄訳源氏物語を手に取ってみた。
原典に忠実だという瀬戸内寂聴訳も評価が高く、田辺聖子の訳は最も多くの読者を獲得して親しまれてきた。
大和和紀のマンガ「あさきゆめみし」は、受験のための必読書にすらなっている。
その時代の言葉と感性、読者の求めに応じて、何度でもよみがえるのが源氏物語だ。

かにかくに 祇園はこひし寝(ぬ)るときも 枕のしたを水のながるる

の歌で知られる吉井勇。
祇園でよく遊んだ人であろう。
もちろん地元出身の舞妓のいた時代である。
京の空気を知り尽くした人の訳はどんなものだろうか。

300ページにも満たない源氏物語は、まるで走馬燈のように、光源氏の輝くばかりの生涯とその失墜、光を失った後の次の世代の世界を描き出す。
早回しで読んでゆくと、物語に流れる基調音として無常観がことさら強く感じられる。
75年余にわたる物語の中には、恋愛の諸相と感情が反復されるのだが、その色合いは微妙に変化する。
変わらぬ男女の愛憎が時代を超える一方、貴族社会の輝き(光源氏の栄華)は確実に失われてゆく。

ディテールの面白さは完訳にしくはないが、こうして思い切りよく切り捨てられた抄訳には、逆に時の流れと人の盛衰が無残に映し出されるようだ。
物語はまるで生きもののように読者の心に力強く働きかける。

いずれの御時にか」ではじまる源氏物語の冒頭は、吉井勇抄訳では

遠い昔の恋物語である

記憶の底に沁みついている普遍的な古物語を呼び起こされるようだ。




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源氏物語の京都案内  文藝春秋編  文春文庫(’08.3)
各帖のあらすじ、系図を載せ、ゆかりの土地と老舗の菓子店、絵や工芸品などを紹介している。
京都へ何度でも通いたくなる。

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この記事へのコメント

ワトソン
2020年03月21日 20:14
脇道のコメントですが、源氏物語の冒頭を思い出していたら、
「いづれの御時にか女御更衣あまたさぶらひたまひけるなかに・・・」
侍の語源がありますね。こののち、北面の武士がそう呼ばれるようになるのでしょう。では、侍は国字では?と思い調べたら、同じように思った人の疑問に答えている人がいて、漢字だそうです。
2020年03月24日 20:30
ワトソンさん、ありがとうございます。
日本の文化は、中国や欧米の外来文化を取り入れて独自に進化させたのがすごい!
源氏物語は国風文化の時代の産物ですが…
中国の源氏物語などといわれることもある「紅楼夢」など、そのテイストの違いに美意識や価値観の微妙な差異が感じられます。
2020年03月24日 20:30
ワトソンさん、ありがとうございます。
日本の文化は、中国や欧米の外来文化を取り入れて独自に進化させたのがすごい!
源氏物語は国風文化の時代の産物ですが…
中国の源氏物語などといわれることもある「紅楼夢」など、そのテイストの違いに美意識や価値観の微妙な差異が感じられます。