平成の黒い霧 「国家はいつも嘘をつく」

本書が挙げた9つの嘘とは、以下の9点である。
1 「アベノミクス」の嘘
2 「民営化」の嘘
3 「働き方改革」の嘘
4 「2020東京五輪」の嘘
5 「日航ジャンボ機123便」の嘘
6 「平和安全法制」の嘘
7 「刑事司法」の嘘
8 「TPPプラス」の嘘
9 「消費税で社会保障」の嘘
多分、本書の読者なら以上の嘘を十分に理解しているか、或いは薄々感づいているかの、どちらかではないだろうか。
では何故、本書を手に取ったのだろうか。
これらの嘘のからくりについて、著者がどのような解説を付すか、に多少とも興味を抱いたからではないだろうか。
そして私たち日本国民は、江戸時代以来の権力との付き合い方に、ひとつの知恵というか、狡さというか、「事なかれ主義」が根強いことを改めて痛感するのだ。
富も権力も、奪取するのではなく、そのおこぼれに与る。
(確かにそれは奴隷根性ともいえる)
安倍政権の存続を決定するのは、政策の成功や実現によって有権者の積極的な支持を得たからではなく、
選挙制度を上手に利用し、マスメディアを支配し、その嘘への批判を封じたことにある。
時に、嘘はあまりに堂々とつかれると、やがてそれが本当のこととして流通しかねない。
「大衆は小さな嘘より大きな嘘の犠牲になりやすい。とりわけそれが何度も繰り返されたならば」
と言ったのはほかならぬヒトラーだ。
安倍政権の閣僚のひとり、麻生太郎は、憲法改正に関して「(ナチスの)手口を学んではどうか」と発言して物議をかもしたことがあった。
はしなくも、その真意を暴露してしまう語り口にこそ、この政権の正体が明らかになる。
安倍内閣の政権運営の手法は、ファシズムのそれに酷似しているではないか。
ナチスが議会制民主主義の制度下で、違法性なしに政権を獲得したという事実を思い起こそう。
有権者がそれを黙認し続けるなら、今日でも悪夢の再現は起こり得る。
国家はいつも嘘をつく —日本国民を欺く9のペテン
植草一秀 著 祥伝社(’18.12)
この記事へのコメント
翌日の朝日新聞の朝刊で知りました。小さな記事でした。
朝日の記事から抜粋—ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。—中略—憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかねー後略
確か、「こんな言い方では誤解を招くのではないか」とのコメントがあったと記憶しています。反面教師として学ばなければいけない、との発言の趣旨を、朝日も認識していました。しかし、その心配通り、世界中が誤解し騒ぎとなりました。なんと夕刊はその騒ぎに便乗した記事が大きく出ました。
この時に、私は朝日新聞をやめようとも思いました。
わたしたちは、国家機関の発言をマスメディア(媒体とは言い得て妙)を通して知ります。先の大戦でマスメディアがどういう役割を演じたかを、思い起こしましょう。
2013年8月1日(木)朝刊2面下部
社民党の又市幹事長は31日、—中略—「断固糾弾し、発言の撤回と議員辞職を求める」とする談話を発表した。—中略—麻生氏は29日、東京都内のシンポジウムで「ある日気づいていたら、ワイマール憲法がかわって、ナチス憲法にかわっていた。だれも気づかないでかわった。あの手口を学んだらどうかね」などと語った。改憲について「狂騒のなかで決めてほしくない」と冷静な議論の必要性も指摘したが、ナチス政権を肯定したとも受け取られかねない。
8月1日夕刊1面トップ
麻生氏、ナチス発言撤回 「真意異なる」と説明
2面の、麻生副総理のコメント(全文)
前略—私がナチス及びワイマール憲法に係る経緯について、極めて否定的にとらえていることは、私の発言全体から明らかである。ただし、この例示が、誤解を招く結果となったので、ナチス政権を例示としてあげたことは撤回したい。
8月2日朝刊の社説
麻生氏の発言 立憲主義への無理解だ
・・普通に聞けば、ナチスの手法に学ぶべきだと言っているとしか受け止められない。・・
・・「ナチス憲法」なるものができたわけではない。・・
・・当時のドイツでは、ワイマール憲法に定める大統領緊急令の乱発が議会の無力化とナチスの独裁を招き、数々の惨禍につながった。こうした立憲主義の骨抜きの歴史を理解していれば、憲法論でナチスを軽々しく引き合いに出すことなど、できるはずがない。・・
—以上です。発言の翌日、翌々日には記事にならず、31日の野党の追及があって、1日に記事にしている。しかしその記事の主旨は野党の反発で、発言に関しては、誤解されかねないと、心配している。ところが、夕刊ではうって変って、世界の、誤解に基づく批判の尻馬に乗っている。今回そこまで調べませんでしたが、海外の批判は「なんだ、反面教師(negative example)なのか」で急速に消えたと、記憶しています。
私たちは、社会のことをマスコミを介してしか知り得ません。国家と同じくマスコミの噓にも気を付けましょう。
政治家は、その発言が大きな影響力を持ちますから、言葉尻の細部にまで気をつけるべきですね。