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zoom RSS 権力と孤独 演出家 蜷川幸雄の時代

<<   作成日時 : 2017/08/07 18:51   >>

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「権力と孤独」というタイトルからは歴史上に数多あらわれた絶対君主を想像してしまうが、本書は芸能の話である。
演劇という虚構の世界を作り上げる全過程で、有無を言わさぬ権威を付与され、俳優やスタッフの一挙手一投足を支配する演出家について書かれた本だ。

厳しい演技指導で知られた蜷川幸雄、かつて彼との2年半にわたるインタビューを「演出術」(ちくま文庫)という本にまとめている長谷部浩による評伝である。
商業演劇は言うに及ばず、小演劇も熱心な観客とはいえず、せいぜい能や文楽、古典芸能関係は人より劇場に足を運んでいるかな、という程度の私なのでえらそうなことは言えないが、昨年80歳で亡くなった稀有の演出家の生身を彷彿させる文章に接すると、やはり舞台を観ておかなかった不明を恥じる気持ちになる。

稽古中に灰皿を投げる、というのは有名な話だけれど、才能を信じ愛する役者に対してのダメ出しは特に苛烈を極めたようだ。
当の俳優にとってみれば、愛情あればこそのダメ出しと考える余裕もなく、憎しみすら生じたという。
今日では蜷川幸雄は大舞台の華麗な演出で記憶されているが、初演出の場はアートシアター新宿文化である。
実験的な映画を作るATG(アート・シアター・ギルド)の作品を中心に上映した映画館だ。
ATGは、独立プロによる作品を多く上映することによって、前衛的な映画監督を支援した。
(蜷川もいっときは映画監督を目指していたらしい)

セクト間の抗争に陥った反体制運動が市民の支持を失ってゆき、政治の季節が終わろうとしていた。
新宿からも熱い観客が消えていった。
1973年にはオイルショックが起こり、時代の逼塞感は否めなかった。
その頃、蜷川幸雄は商業演劇に進出している。
日生劇場で演出された「ロミオとジュリエット」である。
主演は六代目市川染五郎。
アングラ演劇で気安くものを言える俳優を相手にするのとはわけが違う。
環境が変わっても蜷川幸雄自身は、あくまでアジテーターでいたいと思っていた。
俳優をオルガナイズする言葉を模索していたようだ。

舞台という物理的な条件はあれど、表現の上では原則的に自由な空間である。
その自由はひとえに演出家の頭脳の中にある。
ダブルキャストばかりかトリプルキャストとなることもあり、俳優も過酷な競争にさらされる。
演出家は観客動員数が気になる。

演劇という一回性の芸能は、せめてフィルムという記録性を持った媒体に憧れるものかもしれない。
一方、音楽などと同様、時々刻々を失われゆくパフォーマンスだからこそ、一回限りの生に万感を込めるエネルギーが傾注されるのだろうとも思う。
苛烈な演出術は、蜷川幸雄の生き方そのものだったのだろう。




※ 権力と孤独 演出家 蜷川幸雄の時代
                  長谷部浩 著 岩波書店(’17.4)

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